なぜ釣り人は「自責」でなければ上達できないのか――メタ認知の視点から

雑記

釣りという趣味は,外的な要因がとても多い遊びです.

その日の潮,気圧,流れ,風向き,水温,ベイトの有無,船長の操船,周囲の釣り人の数や位置など,自分の力ではどうにもならない要素が釣果を大きく左右すると思います.

そのため,釣れなかった理由を外に求める「他責」の思考に陥ることは,ある意味で自然なことなのかもしれません.

「今日は潮が悪かった」
「潮先の人に魚を取られた」
「船長がポイントを外した」
「合うタックルがなかった」

こうした言葉は,誰しも一度は口にしたことがあるのではないでしょうか.

ですが,釣りの技術を本気で向上させたいと考えるなら,この「他責」の姿勢が大きな壁になります.

なぜなら,他責の思考は「自分を変える必要がない」と無意識に結論づけてしまうからです.

上達したいと願うのであれば,必要なのは「自責」の視点です.そしてその根底にあるのが,「メタ認知」の力なのです.


メタ認知とは,自分を観察するもう一人の自分

メタ認知とは,「自分自身の思考や行動を,もう一つ上の視点から見つめる能力」のことを指します.

釣りの場面で言えば,たとえば次のような形で働きます.

  • アタリが遠いとき,「本当に潮が悪いだけなのか? それとも自分のしゃくりが機能していないのか?」と自問する.
  • 隣の釣り人が釣っているとき,「ポイントの差」というより,「ジグの動かし方やリズムが自分と違うのでは?」と観察する.
  • 釣果に恵まれなかった帰り道に,「道具のせい」にせず,「自分の情報収集や状況判断は十分だったか?」と振り返る.

こうした「一段引いた視点」を持てる釣り人は,確実に成長します.

なぜなら,自分の行動・判断・技術に対して冷静に修正をかけることができるからです.


自責とは,自分を責めることではない

「自責」と聞くと,「自分を責める」ようなイメージを持たれるかもしれませんが,それは誤解です.

釣れなかったからといって,自分を否定する必要はありません.自責思考とは,「改善点を自分の中に探そうとする姿勢」のことなのです.

「潮の変化にもっと早く気づけたのではないか?」
「ジグの選択を変えるタイミングが遅れたのではないか?」
「魚探の反応を十分に読み解けていなかったのでは?」

こうした問いかけは,どれも未来志向です.
自責とは,次の釣行に向けて「自分にできること」を考えるための出発点なのです.


他責は停滞を生み,自責は変化を生む

釣りは,「言い訳を作るための素材」が無限にあります.自然条件も多様ですし,誰のせいにしてもそれらしく聞こえてしまいます.

ですが,そこで思考を止めてしまった時点で,成長も止まってしまいます.

技術を伸ばす人は,釣れなかったときにこそ「自分にできたことはなかったか」と考えます.

  • 隣の人と何が違ったのか?
  • ジグの種類だけでなく,操作のリズムやラインテンションはどうだったのか?
  • 潮上と潮下の違いをどう見ていたのか?

一見小さな違いでも,そこに気づけるかどうかで,その後の成長は大きく変わっていきます.


自責思考は,楽しさをも増幅させる

興味深いのは,自責思考を持つ釣り人は,上達するだけでなく「釣りの楽しみそのもの」も深く味わえるようになるという点です.

「今日は釣れなかったけど,あの時ジグを変えて反応が出た瞬間,何かを掴めた気がした」
「あのライン角度で食わせられたのは,昨日の反省が活きた結果だ」

そんなふうに,自分の仮説と行動がリンクし,それが結果につながる過程そのものが「面白さ」になるのです.

ただのラッキーフィッシュでは得られない,確かな成長実感.
それこそが,自責の視点からしか得られない報酬です.

自責にもバランスが必要――「自分を責めすぎる罠」

ここまで,自責思考の重要性をお伝えしてきましたが,実はもう一つだけ,大切な注意点があります.

それは,「極端な自責」はむしろ逆効果になりかねないということです.

釣れなかった理由をすべて自分のせいだと抱え込みすぎてしまうと,やがて自信を失い,判断力が鈍ったり,釣り自体がつまらなくなってしまうこともあります.

とくに,真面目で研究熱心なタイプの釣り人ほど,結果が出なかったときに自分を過度に責めがちです.

「やっぱり自分の腕が足りなかった」
「どれだけ準備しても無意味だった」
「もうセンスがないんじゃないか……」

このような思考に陥ってしまうと,本来「改善のための自責」が,「自己否定のための自責」へとすり替わってしまいます.

自責とは,本来「未来に向かう視点」です.
その視点が「過去を責めるための材料」になってしまっては,本末転倒です.


自責とは,「できなかったこと」ではなく「できるかもしれないこと」に目を向けること

大切なのは,「何がダメだったのか」ではなく,「次は何を変えられるか」に目を向けることです.

つまり,自責とは「自分を追い込むための思考」ではなく,「変化を見つけるための思考」であるべきなのです.

自分を俯瞰して見る力(メタ認知)を使いながらも,過去を否定するのではなく,未来の可能性を探す.

そのバランスこそが,釣りにおける“健全な自責”なのだと思います.


おわりに

釣りは,自然を相手にする不確実性の高い趣味です.だからこそ,ダメだった時の原因を外に求めたくなる気持ちはよくわかります.

でも,そんなときこそ自分に問いかけてみてください.

本当に自分は,魚に近づく努力を尽くせたのか?

その問いかけに真正面から向き合い,自分の中に改善の種を見つけようとする姿勢が,技術向上の第一歩です.

そしてそのプロセスこそが,釣りをより奥深く,より自分にとって価値ある時間にしてくれるのではないでしょうか.


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