1万人の届出が意味するもの――遊漁者登録情報から見えてきたクロマグロ遊漁の現在と未来

雑記

クロマグロ遊漁は,いよいよ次の段階に入ったのだと思います.

これまでクロマグロ釣りは,良くも悪くも現場の熱量で広がってきた釣りだったように思います.
マグロを追う船があり,そこに通う釣り人がいて,釣れる海域の情報が走り,予約が埋まり,凪を待ち,チャンスの一日に賭ける.正直資源量が減少してからはほぼ釣れないことばかり.
そんな,非常に濃くも薄く,熱く,少し特殊な釣りのような気がしています.
自分は,なんというか海域的にも適合しないし,根に行かない魚には今はまだ興味はないというところでターゲットにはしていませんが,基本的には動向については興味があり観測者としての立ち位置で見守ってきました.

自分のおおっ!?と思った関心事について.
令和8年4月から,クロマグロ遊漁には届出制が導入されました.

水産庁は,遊漁によりクロマグロ大型魚を採捕しようとする場合,またクロマグロを目的として遊漁者を漁場に案内しようとする場合には,事前届出が必要になると説明しています.届出の対象は,釣り人である遊漁者,遊漁船業者,そしてプレジャーボート等の運航者です.
(一応,かなり薄い海域ではありますが,太平洋側では採捕例があることから自分も遊漁者とプレジャーボート両方で登録済みです)

注目点は,単に「マグロ釣りに一枚書類が増えた」という話ではありません.
クロマグロ遊漁というものが,行政上の数字として見えるようになったということです.

これまで曖昧だったものが,数字になる.
誰が釣るのか.
どの船が案内するのか.
どの海域で,どれくらいの人間がクロマグロを狙っているのか.

その輪郭が,少しずつ見え始めたわけです.
これは追っていくのは面白そうだと思いました.

水産庁にはくろまぐろ遊漁の部屋というページがあります.

クロマグロ遊漁の部屋:水産庁

ここに毎月の採捕状況や遊漁禁止のお知らせなどが出ます.

また,このクロマグロに関する取り決めの提言を行う部会として,農林水産省の部会があり,以下に議事録などが掲載されています.

くろまぐろ遊漁専門部会議事録:水産庁

最新では議事録は出ていませんが,R08年5月26日開催の会議の資料があがっており,ここにそのクロマグロ遊漁者の登録状況などが載っていたので,これを参照しつつ,つらつらと書いてみたいと思います.

届出1万人超えは,クロマグロ遊漁の大衆化を意味するのか

現時点で出ている届出情報を見ると,クロマグロを狙う遊漁者の届出は1万人を超えています.水産経済新聞も,クロマグロ遊漁者の届出が1万1470人に達したと報じています.

クロマグロ遊漁者1万1470人が届け出 4月は採捕上限3.1トン超過 広調委専門部会 | 日刊水産経済新聞
広域漁業調整委員会「くろまぐろ遊漁専門部会」の第7回合同会議が26日、農林水産省内で開催された。太平洋ク…

この数字だけを見ると,クロマグロ釣りが一気に大衆化したようにも見えます.
「日本中に1万人以上のマグロ釣り師がいるのか」と感じる人もいるでしょう.

しかし,そこは少し冷静に見た方がいいと思います.

届出件数は,そのまま実釣人口ではありません.
ここを読み間違えると,クロマグロ遊漁の実態をかなり外します.

水産庁の資料では,遊漁者の届出は一度行えば委員会指示期間中に何度も届出する必要はないとされています.また,届出は釣りをしようとする海域ごとに行う必要があり,プレジャーボート等を使って自らクロマグロを採捕しようとする遊漁者は,「遊漁者」と「遊漁船以外の船舶を運航する者」の両方の届出が必要になります.

つまり,この数字にはいくつかのものが混ざっています.

本当に予約を入れて,今シーズンにマグロを狙いに行く人.
行くかもしれないから,とりあえず届けた人.
船宿に言われて,念のため登録した人.
複数の海域に関係する人.
プレジャーボート側の届出と重なる人.

だから,届出件数をそのまま「ガチで海に出る人数」と読むのは,かなり雑です.

この数字が示しているのは,実釣人口というより,クロマグロ遊漁に参加する可能性がある人間の外枠です.
言い換えれば,クロマグロ遊漁の「関心人口」が初めて見えた,ということだと思います.

実際に海へ出る人は,おそらくもっと少ない

では,実際にクロマグロを狙って海へ出る人はどれくらいいるのでしょうか?

これは私の超大雑把な勝手な推計ですが,届出ベースで1万人を超えていたとしても,年内に実際1回以上クロマグロ狙いで出る遊漁者は,おそらく4,000〜7,000人程度ではないかと見ています.現に私がとりあえずもしかしたら釣れちゃうかもしれないからとりあえず登録しとこ!と思って登録しています.
さらに,年に複数回遠征し,船代,宿泊費,タックル代,天候キャンセルのリスクまで受け入れて,本気でクロマグロを追い続ける層は,2,000〜4,000人程度.
もっと濃いコア層に絞れば,1,000〜2,000人程度ではないでしょうか.

あとはクロマグロの遊漁はハイシーズンは月のはじめだけで枠に達してしまい,実質的に釣りに参加できない層というのもある一定数居るように思います(実際,今月は2日間だけで本日から採捕禁止です)

ざっくり整理すると,こういう感覚です.

区分推計
届出ベースの遊漁者約1.1万人
重複や保険的届出を除いた実人数7,000〜9,000人
年1回以上,実際にクロマグロ狙いで出る層4,000〜7,000人
年複数回追うガチ勢2,000〜4,000人
全国的なコア層1,000〜2,000人

もちろん,これは公式な数字ではありませんので注意してください.
ただ,釣りの現場感から考えると,こちらの方が実態に近いと思います.

クロマグロ釣りは,誰でも気軽に何度も行ける釣りではありません.
まず船が限られます.
予約も簡単ではありません.
天候にかなり左右されます.
そして,タックルも安くありません.

PE,リーダー,フック,ルアー,ロッド,リール,ギンバル,グローブ,遠征費.
一度本気で揃えようとすれば,普通の釣りとは桁が変わると思います.

さらに,クロマグロは「行けば釣れる魚」では無いのかなと思います.それが最近は行ければかかる確率が格段に上がっているので人気になってきているような気もしますが・・・.

とにかく,届出した人のすべてが,継続的にクロマグロを追うとは考えにくいです.
むしろ本当に残るのは,数字で見えるよりずっと少ないはずです.

遊漁船も,届出した船と本気で出す船は違う

遊漁船側も同じです.

届出をしたからといって,その船が毎年本気でクロマグロ便を組むとは限りません.
問い合わせがあるから届けた船もあるでしょう.
青物キャスティングの延長で,可能性として届けた船もあるでしょう.
年に数回だけ,状況が合えば出す船もあると思います.

クロマグロ便は,普通の青物便とは違います.

魚が大きい.
ファイト時間が長い.
事故リスクもある.
乗船者の技量差がそのままトラブルになる.
採捕報告や禁止期間の確認も必要になる.
ラインブレイク,オマツリ,船上での立ち位置,ランディング,リリース判断,すべてが重く,遊漁側も気軽にやろう!とはならないと思います.気軽に考えちゃっている人もいるかもしれませんが.

水産庁資料でも,遊漁船業者はクロマグロ遊漁に関する規制を遊漁者に周知する義務があるとされています.

これからは,「釣らせる船」である前に,「制度対応できる船」であることが問われます.

私の感覚では,届出済みの遊漁船業者が約1,900件規模だとしても,実際に年1回以上クロマグロ便を出す船は800〜1,200隻程度.
シーズン中に継続して狙う船は300〜600隻程度.
全国的に見て,クロマグロ遊漁の主戦場と言える船は150〜300隻程度ではないかと思います.

区分推計
届出済み遊漁船業者約1,900件
年1回以上クロマグロ便を出す船800〜1,200隻
シーズン中に継続して狙う船300〜600隻
全国的な主戦場の船150〜300隻

ここで大事なのは,数の多さではありません.
本当にクロマグロを成立させられる船は,かなり限られるということです.

そして今後,その差はもっと開くと思います.

クロマグロ遊漁は,今後さらに選別される

では,これからクロマグロ遊漁はどうなるのでしょうか.

私は,かなりはっきり選別が進むと思っています.

まず,釣り人が選別されます.
届出をしているか.
ルールを理解しているか.
禁止期間を確認しているか.
大型魚を掛けたときに,まともにファイトできるか.
船上で周りに迷惑をかけないか.
リリースが必要な場面で,正しい判断ができるか.

金を払えば誰でも参加できる釣りではなくなっていくと思います.
いやむしろそうなっていってほしい・・・今は早いもの勝ちで食べたいという欲が強すぎるあまりに,リリースする人はほとんど居ないと思います.なので,少ない枠を取り合って月はじめに予約が集中し,枠を数日で埋めてしまっています.全員が良識を保てば,遊漁船の船長同士が良識を持ってつながれば,リリースを前提としたスポーツフィッシングとしての未来も無くはないのかなとは思います.でも今の日本状況だとそういう状況は見えません.

次に,船が選別されます.
釣果を出せるかどうかだけではなく,制度対応できるか.
客にルールを説明できるか.
採捕禁止期間を正確に把握しているか.
釣らせるだけでなく,管理された遊漁として成立させられるか.

これから選ばれる船は,単に「釣れる船」ではなく,「任せられる船」になっていくはずです.
正直今は,釣れる船が予約が埋まる.みたいな状況は否めません.

そして,海域も選別されます.
釣れる場所に人が集まり,採捕枠が早く埋まり,禁止期間が出る.
その繰り返しの中で,釣行できるタイミングはどんどんシビアになります.

クロマグロ釣りは,今よりもっと予約が難しくなり,凪待ちの価値が上がり,一回の釣行の重みが増すと思います.

1万人の届出が本当に意味するもの

1万人を超える届出が意味するものは,単なるブームではありません.

もちろん,クロマグロを釣りたい人は増えていると思います.
大型魚への憧れもあるでしょう.
SNSの影響もあるでしょう.
一生に一度でいいから,あの魚を掛けてみたいという気持ちも分かります.

しかし,本質はそこではないのかなと思います.

この数字が意味しているのは,クロマグロ遊漁が,いよいよ「見える釣り」になったということです.
今まで曖昧だった釣り人の数,船の数,海域ごとの動き,採捕の速度.
それらが,少しずつ管理のテーブルに乗り始めたということです.

そして,見えるようになったものは,必ず管理されます.

これは避けられない流れです.
むしろ,これまで見えないまま大きくなってきたクロマグロ遊漁が,ようやく社会的な形を持ちはじめたと考えるべきでしょう.

ここから先は,釣り人も船も問われます.

ただ釣りたいだけなのか.
それとも,この釣りを未来に残したいのか.

その違いが,これからはかなりはっきり出ると思います.

クロマグロ遊漁の未来

クロマグロ遊漁は,おそらく今後も簡単にはなりません.
むしろ,もっと難しくなると思います.

制度は細かくなる.
採捕枠は意識せざるを得なくなる.
船は選ばれる.
釣り人も選ばれる.
釣れるタイミングは短くなり,その短い窓に人と船が集中する.

実際,色々議論があって,キープできる人を抽選で決めようか?なんていう資料もありました.

簡単に行けない.
簡単に釣れない.
簡単に持ち帰れない.
それでも,あの魚を追いたい人がいる.

水平線の向こうに,いつ出るか分からないナブラを探す.
何時間もキャストし続ける.
一瞬のチャンスに,全身の感覚を合わせる.
掛けた瞬間,それまでの釣りとは違う重さがロッドに乗る.

その一尾には,ただの釣果以上のものがある釣りになるのかなと思います.

だからこそ,この釣りを続けるためには,釣り人側も変わらなければならないのだと思います.
制度を面倒だと切り捨てるのではなく,制度の意味を理解する.
資源管理を他人事にしない.
船任せにしない.
自分がクロマグロという魚を釣る一人の遊漁者であることを,自覚する.

1万人の届出は,クロマグロ遊漁のゴールではありません.
むしろ,始まりです.

クロマグロ遊漁は,これから本当の意味で問われます.
釣り人の熱量.
船の覚悟.
資源への向き合い方.
そして,この釣りを次の時代に残せるかどうか.

クロマグロは,ただ大きな魚ではありません.
その魚をどう釣るかによって,日本の遊漁そのものの成熟度が問われているのだと思います.

続?

これまでウォッチしてきた自分としては,制度の決まって行き方にかなりの疑問を感じており,誰がどういうプロセスでこの制度を決めていっているのか?どういう会議体があるのか?等々,クロマグロ遊漁に関する組織図.みたいなものをそのうち記事で書けたいいなと思います.

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